神戸地方裁判所 昭和33年(行)10号 判決 1968年2月13日
神戸市兵庫区都由之町三丁目四五番地
原告
有限会社ローラン美容室
右代表者代表取締役
白井金蔵
右訴訟代理人弁護士
水本信夫
右訴訟復代理人弁護士
土井平一
同
河瀬長一
神戸市兵庫区水木通二丁目五番地
被告
兵庫税務署長
森本正三
右指定代理人検事
氏原瑞穂
同
法務事務官 葛本幸男
同
大蔵事務官 戸上昌則
同
同 黒田守雄
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、「被告が原告に対し昭和三三年二月二八日付通知第九三九号、第九四〇号、第九四一号をもって為した原告の昭和二八年六月一日以降昭和三一年五月三一日までの三ケ年にわたる事業年度における所得金額に関する各再調査決定は、これを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として、
「一、原告は肩書地において美容院業を営む会社であるが、(一)自、昭和二八年六月一日至昭和二九年五月三一日事業年度分、(二)自昭和二九年六月一日至昭和三〇年五月三一日事業年度分、(三)自昭和三〇年六月一日至昭和三一年五月三一日事業年度分の各事業所得金額につき、別表一ないし三のうち、いずれも「原告申告額」欄記載の金額のとおり、被告に対し各確定申告(申告書の提出は、(一)につき昭和二九年七月二三日付、(二)につき昭和三〇年七月三〇日付、(三)につき昭和三一年七月二五日付)したところ、被告は昭和三二年二月二八日、別表一ないし三のうち、いずれも「更正決定額」欄記載の金額をもって、前記(一)ないし(三)の事業年度分の所得金額とする旨各更正決定をした。そこで原告は同年三月二〇日被告に対し、右各更正決定に対する再調査の請求をしたところ、被告は昭和三三年二月二八日、請求の趣旨記載の通知により、右各更正決定を取消し、別表一ないし三のうち、いずれも「再調査決定額」欄記載の金額をもって、前記(一)ないし(三)の各事業年度分の所得金額とする旨各再調査決定をした。
二、しかしながら、原告の前記確定申告は、真実の所得金額に基づいて為されているのに対し、被告の本件各再調査決定は、原告の所得金額につき単なる見込をもって為されたものであって過大不当である。
よって、原告は被告の為した本件各再調査決定の取消を求める。」
と述べ、被告の主張に対し、
「一、主張一、の事実を認める。主張二、のうち本件各事業年度における原告の所得金額につき、主張のごときいきさつで認定されたことは認めるが、その認定の根拠についてはすべて争う。
二、本件各再調査決定が為されるにいたった根拠は、柴田すみ子、柴田喜代子の各名義の神戸銀行有馬道支店の預金の存在であるが、右両名名義の預金通帳は、昭和三二年二月八日被告の抜き打ち調査の際発見されたものであって、もとより原告会社の経理とかかわりのあるものではなく、原告会社代表者白井金蔵の個人事業の資金収支のために利用していたものである。すなわち、
(イ) 柴田喜代子名義の預金通帳は、訴外柴田喜代子が昭和二七年二月頃現在のミナト支店の土地建物の買入代金(約金四五万円)を京都より神戸へ送金する際に、現金保管のために自己名義で設定したものであり、同支店建物の修理費およびミナト美容師短期養成所創設資金等の保管にも利用したことがあったが、その後同訴外人の夫である白井金蔵(原告代表者)において個人的事業、美容材料の財売、月刊業界紙の発刊等、のための資金の保管に利用するようになったものである。
(ロ) 柴田すみ子名義の預金通帳は、白井金蔵が昭和二六、七年頃からしばしば前記喜代子の母である訴外柴田すみ子より、前記個人的事業のための資金を借受けていたところ、昭和二八年頃から右事業内容が繁雑となるに伴い、返済資金を確保する意味において、融資者本人の名義を利用したほうが得策であると考えた結果、これを設定したものである。」と述べ、
立証として、甲第七ないし第九号証、同第一〇号証の一ないし三、同第一一号証の一、二、同第一二号証の一ないし五、同第一三号証の一ないし三、同第一四号証の一ないし五、同第一五号証の二、同第一六ないし第二三号証、同第二四号証の一ないし四、同第二五号証の一ないし三、同第二六号証の一、二、同第二七、二八号証、同第二九号証の一ないし三を提出し、証人北田和子、同白井喜代子の各証言、原告会社代表者白井金蔵の尋問結果を援用し、乙第一七号証の成立は否認する。その余の乙号各証の成立はすべて認める、と述べた。
被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、
「請求原因第一項の事実は認める。同第二項は争う。」と述べ、主張として、
「一、原告会社は、本件確定申告当時、神戸市兵庫区福原町六八番地に本店を置き、同市生田区古添通一丁目六番地にミナト支店、京都市下京区東洞院通四条下ルに京都支店を有して、美容院業を営んでいる個人経営類似の同族会社であり、従業員数は、本店約四名、ミナト支店約六名、京都支店約一三名であり、場所的には京都支店がもっとも良好であり、代表者白井金蔵は京都支店の店舗裏に居住して右三店を統轄している
二、被告の原告会社に対する本件各事業年度における法人所得額の認定経過は、次のとおりである。
(一) 自昭和二八年六月一日至昭和二九年五月三一日事業年度分について
1 原告が昭和二九年七月二三日別表一のうち「原告申告額」欄記載の金額に基づいて確定申告をしたことは、すでに認めたとおりである。
2 これに対し被告は、昭和三〇年二月一〇日実地調査を行ったが、当時後記別口預金を発見するにいたらなかったため、申告所得金額について、(イ)期末未収入金として、訴外音羽時子ほかに対する売上金額でありながら(乙第一七号証)収益に計上していなかった金九、三五〇円を申告金額に加算し、(ロ)計算誤謬として、市民税額につき金一二、九四〇円と申告されているが、現実に納付された額は金一二、〇〇〇円であるから、その差額金九四〇円を減算し、その結果算出される所得金額金七〇、六七四円から繰越欠損金七〇、六七四円を控除して、課税標準を差引零と認定し、この旨昭和三〇年三月三一日原告に通知した。
3 しかしその後被告において調査したところ、神戸銀行有馬道支店の柴田すみ子、柴田喜代子名義の別口預金が発見され、原告の説明によれば、毎日午後六時以降の売上金を三、四日分まとめて入金したものであるとのことであったので、被告はこれを原告の営業による収入と認め、右喜代子名義分に入金した金七二、〇四六円と、右すみ子名義に入金した金四三〇、八七〇円の合計金五〇二、九一六円中、喜代子名義預金の入金額のうち、昭和二九年四月二日の金二五、九〇〇円はすみ子名義預金から引出して預け入れたものであるから、右金二五、九〇〇円を前記金五〇二、九一六円から控除した額金四七七、〇一六円を、原告の売上除外金とみなし、これを原告の所得金額に加算して、別表一のうち「更正決定額」欄記載のとおり、金五四七、六九〇円(但し金九〇円は切捨)をもって所得金額とする旨更正決定し、この旨昭和三二年二月二八日原告に通知した。
4 これに対し原告は、前記別口預金の出金額はいずれも業務上の経費であって、これを右売上除外金から控除すれば別口利益は全くないものであることを理由として、昭和三二年三月二〇日再調査請求をした。
5 そこで被告が再調査したところ、(イ)売上除外金と認定した前記金四七七、〇一六円のうち、昭和二九年五月四日喜代子名義預金に入金された金三五、三四〇円は、すみ子名義預金から引出された金四三、三四〇円の一部をもって入金されていること、昭和二九年五月三一日喜代子名義預金に入金された金一〇、一三〇円は、すみ子名義預金から引出された金員であること、またすみ子名義分の金三二〇円、喜代子名義分の金六七六円は、いずれも預金利息であることなどが判明したので、右判明額を前記売上除外額から控除し、差引金四三〇、五五〇円を売上除外金と認定した。
(ロ)なお、原告の営業経費であるのに会社帳簿に計上されず、前記両名の預金から支出されていたものとして、従業員北田和子ほかに対する給料金一七一、一六〇円のあることが判明した。
(ハ)また、原告は昭和二八年一二月ミナト支店の店舗改築のため金一二五、〇〇〇円を支出していることが判明したので、右資産に対する当期の減価償却費を金五、一二五円と認定した。すなわち、右改築費はいわゆる資本的支出であるから、法人税法上その支出した事業年度の一時の損金とはならず、右資産の耐用年数に応じて算出される当該資産の減価償却相当額をもって当該事業年度の所得計算上損金として算入すべきものであるところ、固定資産の耐用年数等に関する省令(昭和二六年五月三一日大蔵省令第五〇号、以下単に省令と略称する)によると、本件店舗の耐用年数は二七年であり、右年数に対する定率法(原告が本件各事業年度を通じて選択している)による減価償却率は〇・〇八二であるから、法人税施行規則(昭和二二年三月三一日勅令第一一一号、以下単に規則と略称する)第二一条の五、第二一条の三第一項第二号により、本件店舗の取得価額金一三五、〇〇〇円に右減価償却率〇・〇八二を乗じて計算すると、減価償却範囲額は金一〇、二五〇円となる。しかしながら、原告は本件店舗を事業年度の中途において取得しているから法人税法施行細則(昭和二二年三月三一日大蔵省令第三〇号、以下単に細則と略称する)第三条の三により、当事業年度において損金に算入される減価償却額は、右減価償却範囲額金一〇、二五〇円にその取得の日(昭和二八年一二月)から当該事業年度の終了の日までの期間の月数六(昭和二八年一二月から昭和二九年五月三一日までの期間の月数)を乗じ、これを当該事業年度の月数一二で除して計算した金五、一二五円である。
右計算を算式で示すと次のとおりである。
取得価額 減価償却率 取得日より期末までの期間の月数
<省略>
減価償却範囲額 事業年度の月数
(ニ)原告は当期繰越欠損控除額として金六二、二六四円を計上していたが、被告はこれを否認した。すなわち、原告は法人税法(昭和二二年三月三一日法律第二八号、以下単に法と略称する)第二五条第一項による青色申告書提出の承認を被告から受けていたものであるところ、被告は昭和三二年二月二八日法第二五条第七項により右承認を取消し、この旨原告に通知したが、これに対し原告は不服申立をしなかったので右処分は確定した。したがって原告は青色申告法人ではないから、法第九条第五項に規定する繰越欠損の損金算入の適用を受けることはできない。
(ホ)以上のとおり、被告は、(イ)の売上除外額金四三〇、五五〇円より、(ロ)の簿外給料金一七一、一六〇円および(ハ)の減価償却費金五、一二五円の合計額金一七六、二八五円を営業経費として差引いた額、結局、金二五四、二六五円が原告の除外利益金であるとし、これを原告の所得金額に加算して、別表一のうち「再調査決定額」欄記載のとおり、金三二四、九三九円(但し金三九円は切捨)をもって所得金額と認定し、さきの更正決定を取消する旨再調査決定し、この旨昭和三三年二月二八日原告に通知した次第である。
(ニ) 自昭和二九年六月一日至昭和三〇年五月三一日事業年度分について
1 原告が昭和三〇年七月三〇日別表二のうち「原告申告額」欄記載の金額に基いて確定申告をしたことは、すでに認めたとおりである。
2 これに対し被告は、申告書面中の計算誤謬を是正して、所得金額を金八五、三二〇円と認定し、この旨昭和三〇年一〇月三一日原告に通知した。
3 その後被告は、前記のごとく別口預金の発見に伴い、前期事業年度と同様にして、すみ子名義分に入金した金四三九、九六八円と、喜代子名義分に入金した金三五五、三七七円の合計金七九五、三四五円を売上除外金と認定したほか、別表二のうち「更正決定額」欄記載のとおり(なお同表中の貸付金利息は、前期において原告会社代表者に対し無償で貸付けた金額に対する利息のことである)の内容をもって所得金額を金九〇二、七二八円(但し金二八円は切捨)とする旨更正決定し、この旨昭和三二年二月二八日原告に通知した。
4 これに対し原告は、昭和三二年三月二〇日、前期の場合と同趣旨の理由により再調査請求をした。
5 そこで被告が再調査したところ、(イ)売上除外金と認定した前記金七九五、三四五円のうち、すみ子名義預金から引出されて喜代子名義預金に入金されているものとして、合計金二三九、一一五円(すなわち、昭和二九年七月一日金三七、一二〇円(引出金、以下略す)から金二五、九二〇円(入金分、以下略す)、同月三一日金四四、一五〇円から金三〇、九五〇円、同年一〇月一日金三四、五五二円から金二四、二五二円、同年一一月一日金五五、一一〇円から金三八、六一〇円、同年一二月三日金三七、一八〇円から金二六、一八〇円、昭和三〇年一月五日金七三、五七一円から同金額、同年五月二日金三四、五九二円から金一九、六三二円、以上入金分合計金二三九、一一五円)のあることが判明したので、これを控除して、差引金五五六、二三〇円を売上除外金と認定した。
(ロ)なお、前期と同様、簿外営業経費として、従業員に対する勤続賞費金五一、〇〇〇円、従業員のレクリエーション費金五八、〇〇〇円、ミナト支店の入口修理費金八、八〇〇円、仕入代金八四、〇〇〇円、以上合計金二〇一、八〇〇円を認定した。
(ハ)また、前期のミナト支店の店舗改築費に関する減価償却費を金九、八二八円と認定した。すなわち、前期と同様、規則第二一条の三第一項第二号により、本件店舗の未償却残額金一一九、八七五円(取得価額より前期の減価償却額を控除した金額)に該物件に適用される減価償却率〇・〇八二を乗じて算出した額が右金九、八二八である。
右計算を算式で示すと次のとおりである。
(取得価額 前期の減価償却費125,000円-5,125円未償却残額)×減価償却率0.082=9,828円
(ニ)被告は、更正決定において認定した貸付金利息額金四七、七〇一円を取消した。
(ホ)原告は当期の収益として未収入金九、三五〇円を計上していたが、右金額はすでに被告が前期において所得に加算したものであるから、これを当期の所得の額から控除することにした。
(ヘ)前期の所得に対する事業税金三二、四九〇円(前期の所得金三二四、九〇〇円に事業税率百分の一〇の割合を乗じて計算した金額)は、当期の所得の計算上損金に算入できるものであるところ、原告がこれをしなかったので、被告はすすんでこれを控除することにした。
(ト)原告は当期繰越欠損控除額として金四八、七六〇円を計上していたが、前期5の(二)において述べたとおり、原告は青色申告書提出の承認を取消されているから、法第九条第五項に規定する繰越欠損の損金算入の適用を受けることはできない。
(チ)以上のとおり、被告は、(イ)の売上除外額金五五六、二三〇円より(ロ)の簿外営業経費合計金二〇一、八〇〇円および(ハ)の減価償却費金九、八二八円の合計額金二一一、六二八円を控除し、差引金三四四、六〇二円をもって原告の除外利益金としこれを原告申告の所得金額に加算し、(ホ)の前期否認した未収入金九、三五〇円および(ハ)の事業税金三二、四九〇円の合計金四一、八四〇円を控除して、別表二のうち「再調査決定額」欄記載のとおり、金四二七、五〇四円(但し金四円切捨)をもって所得金額と認定し、さきの更正決定を取消する旨再調査決定し、この旨昭和三三年二月二八日原告に通知した次第である。
(三) 自昭和三〇年六月一日至昭和三一年五月三一日事業年度分について
1 原告が昭和三一年七月二五日別表三のうち「原告申告額」欄記載の金額に基づいて確定申告をしたことは、すでに認めたとおりである。
2 これに対し被告は、前記のごとく別口預金を発見したので、前期、前々期と同様に、すみ子名義分に入金した金四三三、四四六円から東京よりの送金入金であって除外売上金でないことが明白である昭和三〇年一一月一六日付入金の金一、七〇〇円を控除し、同じく喜代子名義分に入金した金四九五、三六五円から原告会社代表者白井金蔵の個人的資金の入金であることが判明した昭和三一年一月一八日付入金の金三〇〇、〇〇〇円を控除し、右残合計金六二七、一一一円を売上除外金と認定し、右金額より減価償却費金六六〇円を差引いた金六二六、四五一円を除外利益金と認定したほか、別表三のうち「更正決定額」欄記載のとおり(なお同表中の貸付金利息は、前期において原告会社代表者に対し無償で貸付けた金額に対する利息のことである)の内容をもって所得金額を金六一四、〇四六円(但し金四六円は切捨)とする旨更正決定し、この旨昭和三二年二月二八日原告に通知した。
3 これに対し原告は、昭和三二年三月二〇日、前期、前々期の場合と同趣旨の理由により再調査請求をした。
4 そこで被告が再調査したところ、(イ)売上除外金と認定した前記金六二七、一一一円のうち、すみ子名義預金から引出されて喜代子名義預金に入金されているものとして、合計金一三一、一一四円(すなわち、昭和三〇年六月一日金五七、四三四円(引出金、以下略す)から金三四、九三四円(入金分以下略す)、同月三〇日金四五、三二〇円から金二六、三二〇円、同年七月三〇日金五一、八六〇円から同金額、以上入金分合計金一一三、一一四円)のあることが判明したので、これを控除して、引差金五一三、九九七円を売上除外金と認定した。
(ロ)なお、前期、前々期と同様、簿外営業経費として、従業員に対する勤続賞費金三四、〇〇〇円、従業員のレクリエーション費金三五、四五〇円、その他経費金七七、六六九円、以上合計金一四七、一一九円を認定した。
(ハ)また、ミナト支店の店舗改築費に関する当期の減価償却費を金九、〇二三円と認定した。右計算関係は、前期および前々期において述べたとおりであり、右計算を算式で示すと次のとおりである。
<省略>
すでになした減価償却額
(ニ)さらに、原告は昭和三一年一月京都支店の洗面所改築のため金一三二、四一〇円を支出しているので、右資産に対する当期の減価償却費を金六、〇一三円と認定した。すなわち、右改築費が資本的支出であって、右資産の耐用年数に応じて算出される減価償却相当額をもって当期における所得計算上損金として算入すべきものであることは、前々期5の(ハ)記載のとおりであるが、省令によると、右資産の耐用年数は二〇年であり、右年数に対する定率法による減価償却率〇・一〇九であるから、規則第二一条の三第一項第二号に規定する方法により、右設備の取得価額金一三二、四一〇円に右減価償却率〇・一〇九を乗じて計算すると、減価償却範囲額は金一四、四三二円となる。しかしながら、原告は右設備を事業年度の中途において取得しているから、細則第三条の三により当該事業年度において損金に算入される減価償却額は、右減価償却範囲額金一四、四三二円にその取得の日(昭和三一年一月)から当該事業年度終了の日までの期間の月数五を乗じこれを当該事業年度の月数一二で除して計算した金六、〇一三円である。
右計算を算式で示すと次のとおりである。
取得価額 減価償却率 取得日より期末までの期間の月数
<省略>
償却範囲額 事業年度の月数
(ホ)さらにまた、原告は昭和三一年一月神戸福原本店の移築のため金一七〇、〇〇〇円を支出しているので、右資産に対する当期の減価償却費を金五、八〇八円と認定した。すなわち前記(ニ)の場合と同様の理窟および根拠法条に基づくと、右資産の耐用年数は二七年、右年数に対する定率法による減価償却率は〇・〇八二であるから、右資産の取得価額金一七〇、〇〇〇円に右減価償却率を乗ずると減価償却範囲額は金一三、九四〇円となるところ、原告は右資産を事業年度の中途において取得しているから、これを所定の方法により計算すると結局、金五、八〇八円が当期の減価償却費として算出されるのである。
右計算を算式で示すと次のとおりである。
取得価額 減価償却率 取得日より期末までの期間の月数
<省略>
償却範囲額 事業年度の月数
(ヘ)被告は、更正決定において認定した貸付金利息額金一二七、二三五円を取消した。
(ト)原告は、当期確定申告書において、府県市民税額につき金一八、〇八八円として所得に加算しているが、現実に納付された額は金一八、三〇八円であるから(乙第一九号証の三、四)、その差額金二二〇円をさらに原告の所得に加算することにした。
(チ)前期の所得に対する事業税金四二、七五〇円(前期の所得金四二七、五〇〇円に事業税率百分の一〇の割合を乗じて計算した金額)は、当期の所得の計算上損金に算入できるものであるところ、原告は被告が前期においてすすんで損金として認めた事業税のうち金八、二二〇円を当期の損金として算入してきたので(乙第一九号証の三、四)、再び損金として計上できない右金八、二二〇円を前記金四二、七五〇円より控除することにし、差引金三四、五三〇円を当期における所得計算上損金に算入すべき事業税と認定した。
(リ)以上のとおり、被告は、(イ)の売上除外額金五一三、九九七円より、(ロ)の簿外営業経費合計金一四七、一一九円および(ハ)、(ニ)。(ホ)の右減価償却費合計金二〇、八四四円、右合計金一六七、九六三円を控除し、差引金三四六、〇三四円をもって原告の除外利益金とし、これと(ヘ)の府県民税の計算誤謬分金二二〇円を、原告申告の所得金額に加算し、これより(チ)の事業税金三四、五三〇円を控除して、別表三のうち「再調査決定額」欄記載のとおり、金二六一、九六四円(但し金六四円切捨)をもって所得金額と認定し、さきの更正決定を取消する旨再調査決定し、この旨昭和三三年二月二八日原告に通知した次第である。
三、以上の次第であって、本件各事業年度における原告の所得金額についての被告の認定は、正当な根拠に基づくものである。ちなみに、法第三一条の四第二項に基づいて本件各事業年度における原告の所得金額を推計してみると、別紙「法人税法第三一条の四第二項に基づく推計」記載のとおりであり、その推計される所得金額は被告認定金額に比してはるかに多額である。
したがって、被告の為した本件各再調査決定には違法の点は存しないから、その取消を求める原告の本訴請求は失当である。」と述べ、
立証として、乙第一号証の一ないし三、同第二ないし第四号証の各一、二、同第五ないし第一四号証、同第一五号証の一ないし四、同第一六号証の一、二、同第一七号証、同第一八号証の一、二、同第一九号証の一ないし四、同第二〇号証を提出し、証人橋本次雄、同山村秀雄の各証言を援用し、甲第七ないし第九号証、同第一〇号証の二、同第一一号証の一、二、同第一二号証の一ないし五、同第一三号証の一ないし三、同第二二、二三号証の成立はいずれも認めるが、その余の甲号各証の成立は不知、と述べた。
理由
一、原告は、後記各確定申告当時、神戸市兵庫区福原町六八番地に本店を置き、同市生田区古湊通一丁目六番地にミナト支店、京都市下京区東洞院通四条下ルに京都支店を有し、本店に約四名、ミナト支店に約六名、京都支店に約一三名の従業員数を擁して、美容院業を営む会社であるが、(一)自昭和二八年六月一日至昭和二九年五月三一日事業年度分、(二)自昭和二九年六月一日至昭和三〇年五月三一日事業年度分、(三)自昭和三〇年六月一日至昭和三一年五月三一日事業年度分の各事業所得金額につき、被告に対し、別表一ないし三のうち、いずれも「原告申告額」欄記載の金額のとおり確定申告(申告書の提出日付は、(一)につき昭和二九年七月二三日、(二)につき昭和三〇年七月三〇日、(三)につき昭和三一年七月二五日)したこと、これに対し被告は、昭和三二年二月二八日、別表一ないし三のうち、いずれも「更正決定額」欄記載の金額をもって、前記(一)ないし(三)の各事業年度分の所得金額とする旨各更正決定をしたので、原告は同年三月二〇日右各更正決定に対しいずれも再調査の請求をしたところ、被告は昭和三三年二月二八日付通知第九三九ないし第九四一号により、右各更正決定を取消したうえ、別表一ないし三のうち、いずれも「再調査決定額」欄記載の金額をもって、前記(一)ないし(三)の各事業年度分の所得金額とする旨各再調査決定をしたことは、当事者間に争いがない。
二、ところで、本件においては原告の売上除外利益金の存否をめぐってもっとも争われており、被告は、これありとし、その根拠として、柴田すみ子、柴田喜代子の各名義の神戸銀行有馬道支店の預金が原告の売上利益より除外されたものである旨主張し、原告は、これを抗争するので、まず、この点より判断をすすめるに、成立に争いのない甲第一三号証の一ないし三によると、原告が前記更正決定を不服として、昭和三二年三月二〇日被告に対し再調査請求をするにいたった理由は、原告は営業時間を午後六時閉店と定め、管理者は定刻退社し、以後万一来客のあった場合は従業員の北田和子を責任者として業務に当らしめることにしており、その場合のいわゆる時間外収入の分を入金したのが、柴田すみ子、柴田喜代子の各名義の神戸銀行有馬道支店の預金であること、しかし右預金は、前記北田和子ほか従業員に対する報奨金の支給としてこれを使用しており、また厚生施設、慰労会、社屋の修繕、東京方面視察の旅費等の支出のために使用したものであって、これを差引すると、売上除外利益は存しない勘定になるから、この点につき被告の再調査を求める趣旨であったこと、そして、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三甲第二三号証、証人橋本次雄、同北田和子の各証言および本件弁論の全趣旨を総合すると、原告は、午後六時の営業時間終了後の収入(チップを含む)を会社経理とは別途に積立てる策を講じ、柴田すみ子、柴田喜代子の各名義の神戸銀行有馬道支店の預金通帳を利用して、右時間外収入を右両通帳に入金し、とくに五、六日分をまとめて右すみ子名義に入金することが多く、そして右入金分からさらに右喜代子名義に移すなどの操作をしていたのであるが、昭和三二年二月八日頃、情報を得た被告が調査したところ、右両通帳が発見されるに及んで、原告会社代表者白井金蔵及び監査役にして本店の責任者である中野政治郎は、いずれも被告に対し、右両人名義の預金が原告の売上利益の一部を除外したものであることを告白したうえ同預金は、原告会社役員の私腹を肥やすためのものではなく、従業員の厚生費、勤続賞費等の営業経費のために支出しているものであるから、これを大目にみてほしい旨陳情したものであり、右預金発覚以来、被告の更正決定、原告の再調査請求、そして被告の本件再調査決定へと、原告の所得金額確定のための一連の手続において、原被告間で争いが集中した点は、右預金中、営業経費としての支出分がどれだけ存在するか、したがって純然たる売上除外利益額がどの程度において存在することになるかの認定をめぐってであったこと、しかして右預金が原告の売上利益と全然関係がない旨の主張が原告においてはじめてなされるにいたったのは、本件訴訟提起後のことであること、をいずれも認めることができる。してみると、原告会社の計算書類には真実を糊塗している個所の存在することを認めないわけにいかないし、また後記三、における認定により明らかなごとく原告会社には簿外営業経費のかなり存在することに徴しても、原告会社の計算書類は計理内容を正額に計上しているものとはいいがたい。
これに対し原告は、本訴において、前記預金は原告会社代表者白井金蔵の個人的事業の資金であって、原告の売上利益と無関係である旨主張するのであるが、なるほど右白井金蔵が昭和二七、八年頃から東和商事と称して美容材料(主としてコールドウエーブ液)の取次販売をしたり、また昭和二九年六月頃から美巧社と称して月刊紙「美容科学」を発行したりしたことは、原告会社代表者白井金蔵の尋問結果および同結果により真正に成立したものと認められる甲第一六ないし第二一号証により、一応これを認めることができるけれども、すすんで同人が右各事業により収益を挙げることができたかどうかについては、これを肯定するがごとき甲第二二号証の中野政治郎の供述記載部分および前記白井金蔵の供述部分が存するが、これらはいずれも、具体性を欠いて極めて要領を得ず、しかも相矛盾する点を有するので、前顕諸証拠に照してとうてい措信できないし、ほかに右収益の挙げられていたことを窺わしめるに足る資料は存しない。かえって前顕諸証拠および本件弁論の全趣旨によれば、白井金蔵は前記事業において未だ収益を挙げる段階にまで達していなかったものであることを推認することができる。
しかして叙上認定事実に徴すると、柴田すみ子、柴田喜代子の各名義の前記預金は、右すみ子名義の預金から右喜代子名義の預金へ移されている分については別として、いずれも、原告の売上利益の一部を除外して別途に預金したものであると認めるのが相当である。
三、そこで、以下において、原告の本件各事業年度における所得金額につき判断をすすめることとする(なお、判断の便宜上、別表一ないし三のうちいずれも「区別」欄記載の順序にしたがって検討してゆくことにする。)
(一) 自昭和二八年六月一日至昭和二九年五月三一日事業年度分について
1 当期利益金額として、原告が金四九、三二四円をもって申告したのに対し、被告は本件更正決定および本件再調査決定を通じてこれを異議なく了承したことは、当事者間に争いがない。
2 原告は当期において納付した市民税額を金一二、九四〇円として申告している(当事者間に争いがない)けれども、成立に争いのない乙第一六号証の一、二によると、原告が実際に納付した右市民税額は金一二、〇〇〇円であることが認められるから、右金額をもって市民税の正当額とすべきであり、法第九条第二項により、これを当期利益金額に加算しなければならない。
3 成立に争いのない乙第二〇号証および同号証における証人門戸久の供述記載により真正に成立したものと認められる乙第一七号証によると当期における売上未収入金として、原告は顧客の訴外音羽時子ほか一一、二名に対し合計金九、三五〇円の売上金を有しながら、これを収益に計上していなかったことが認められるから、右金額は当期利益金額に加算されなければならない。
4 ここでもっとも問題のある除外利益金について検討するに、前叙認定のとおり、すみ子、喜代子の各名義の預金は、すみ子名義から喜代子名義へ移動した分を別として、原告の売上利益を除外したものと思料すべきところ、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三、甲第一三号証の一、証人橋本次雄の証言によれば、当期において、すみ子名義の預金に入金された額は金四三〇、八七〇円、喜代子名義の預金に入金された額は金七二、〇四六円であること、そして被告がすみ子名義から喜代子名義の預金へ移動した分としてみとめた金額は、原告の本件再調査請求書記載の言い分を全面的に容れて、昭和二九年四月二日付金二五、九〇〇円、同年五月四日付金三五、三四〇円、同月三一日付金一〇、一三〇円(いずれも喜代子名義の預金の入金分)、以上合計金七一、三七〇円であること、なお被告は、すみ子名義の預金中、昭和二八年九月一四日付金六五円、昭和二九年三月一五日付金二五五円、右合計金三二〇円、および喜代子名義の預金中、昭和二八年九月一四日付金四九三円、昭和二九年三月一五日付金一八三円、右合計金六七六円につき、いずれも預金利息であることを理由として、これを除外利益より控除することとしたこと、を認めることができる。してみると、前記両名の預金の入金額合計金五〇二、九一六円より、すみ子名義から喜代子名義へ移転した分として被告が譲歩した前記金七一、三七〇円および右両名の前記預金利息の合計金九九六円、右合計金七二、三六六円を控除し、差引金四三〇、五五〇円をもって原告の売上除外利益と思料すべきである。
ところで、(イ)前顕甲第一三号証の一によると、原告は本件再調査請求に際して、右金四三〇、五五〇円が当期における売上除外利益であることを自認したうえ、会社帳簿に計上していないが、当期において従業員に対し奨報金として金一二九、一六〇円および勤続賞として金四二、〇〇〇円、右合計一七一、一六〇円の支出をしており、右は本来営業経費であるから、これを前記除外利益より控除すべきである旨主張したことが認められるところ、被告が本件再調査決定にあたり、この点に関する原告の言い分を全面的に容れたことは、本件訴訟において被告の自陳するとおりである。
(ロ)また同号証によると、原告は昭和二八年暮ミナト支店の店舗改築のため金一二五、〇〇〇円を支出している旨主張したことが認められるところ、被告が右支出のあったことを了承したことは同じく被告の自陳するとおりである。しかしながら、右店舗改築費用は、いわゆる資本的支出であるから、法人税法上、その耐用年数に応じて算出される減価償却相当額をもって、当期における所得計算上損金として控除すべきものであることはいうまでもない。しかして、前記店舗が木造モルタル造のものであることは、証人橋本次雄の証言および本件弁論の全趣旨により認めることができるから、その耐用年数は、省令別表一にしたがい、二七年であり、しかも原告が本件各事業年度を通じ、減価償却の方法として、いわゆる定率法を選択していることは、成立に争いのない乙第一五号証の一、同第一八、一九号証の各一により認めることができるから、右耐用年数に対する定率法による償却率は、省令別表七にしたがい、〇・〇八二であり、そこで規則第二一条の五、第二一条の三第一項第二号により、右店舗の取得価額金一二五、〇〇〇円に右減価償却率〇・〇八二を乗じて計算すると、減価償却範囲額は金一〇、二五〇円となる。ところで、原告は右店舗を事業年度の中途において取得しているから、細則第三条の三により、当期において損金に算入される減価償却額は、右減価償却範囲額金一〇、二五〇円にその取得の日から当期の終了のまでの期間の月数六(すなわち昭和二八年一二月から昭和二九年五月三一日までの期間の月数)を乗じ、これを当期の月数一二で除して計算した金五、一二五円(以上の計算関係は被告主張のとおり)である。
(ハ)なお前顕甲第一三号証の一によると、原告は本件再調査請求に際して、当期における従業員の慰安厚生等に金一三四、三九〇円を支出した旨主張したようであるが、被告がこれをみとめなかったことは前顕橋本証言により明らかであり、本件訴訟におい右支出を認めしめるに足る資料は存しない。
(ニ)そうすると、前記売上除外利益金四三〇、五五〇円より、原告の営業経費である(イ)の簿外報奨金等、金一七一、一六〇円および(ロ)の減価償却費、金五、一二五円の合計金一七六、二八五円を控除し、結局、差引金二五四、二六五円をもって原告の除外利益金と認めるのが相当である。
5 ところで原告は、当期繰越欠損控除額として金六二、二六四円を計上申告している(当事者間に争いがない)けれども、原告会社代表者白井金蔵の尋問結果及び本件弁論の全趣旨によると、原告はもと青色申告法人であったが、昭和三二年二月二八日頃被告より青色申告書提出の承認を取消され、その頃右取消処分は確定したことが認められるから、原告はもはや法第九条第五項に規定する繰越欠損の損金算入の適用を受けることができないものといわなければならない。
6 そうすると、1の当期利益金額、金四九、三二四円に、2の市民税金一二、〇〇〇円、3の未収入金九、三五〇円、および4の除外利益金二五四、二六五円を加え、以上合計金三二四、九三九円をもって原告の当期における所得金額と認定すべきである。したがって、これと同趣旨の認定に基づいて、さきの更正決定を取消したうえ、別表一のうち「再調査決定額」欄記載のとおり為された被告の本件再調査決定は、正当であるといわなければならない。
(ニ) 自昭和二九年六月一日至昭和三〇年五月三一日事業年度分について
1 原告が、当期利益金額として金九一、四三六円、損金に計算した府県市民税として金一三、八八六円、造作費として金一九、四二〇円を、それぞれ申告したのに対し、被告は本件更正決定および本件再調査決定を通じて、これらをすべて異議なく了承したことは、当事者間に争いがない。
2 そこで、前期と同様にして、当期における原告の除外利益金について検討するに、成立に争いのない甲第一三号証の二、乙第一四号証、前顕乙第一号証の一ないし三、前顕橋本証言によると、当期において、すみ子名義の預金に入金された額は金四三九、九六八円、喜代子名義の預金に入金された額は金三五五、三七七円であること、そして被告がすみ子名義から喜代子名義の預金へ移動した分としてみとめた金額は、原告の言い分をほぼ容れて、昭和二九年七月一日付金二五、九〇〇円、同月三一日付金三〇、九五〇円、同年一〇月一日付金二四、二五二円、同年一一月一日付金三八、六一〇円、同年一二月三日付金二六、一八〇円、昭和三〇年一月五日付金七三、五七一円、同年五月二日付金一九、六三二円(いずれも喜代子名義の預金の入金分)、以上合計金二三九、一一五円であることを認めることができ、右入金分のほかにさらにすみ子名義から喜代子名義の預金への移動分が存在することについては、これを確知できる資料は本件において存しない。してみると、前記両名の預金の入金額合計金七九五、三四五円より、右移動分の金二三九、一一五円を控除し、差引金五五六、二三〇円をって原告の売上除外利益と思料すべきである。
ところで、(イ)原告は当期の会計帳簿に計上していないけれども、成立に争いのない乙第五号証によると、原告は昭和三〇年五月従業員に対し勤続賞費として金五一、〇〇〇円を支出していること、成立に争いのない乙第六号証によると、昭和二九年八月従業員の夏季慰安会(淡路島行き)費用として金五八、〇〇〇円を支出していること、成立に争いのない乙第七号証および前顕乙第一四号証によると、昭和二九年一二月ミナト支店の建具造作代として金八、八〇〇円を支出していること、をそれぞれ認めることができるし、また被告が原告の言い分(乙第一四号証記載)を容れて、仕入代金分として金八四、〇〇〇円を了承したことは、被告の自陳するところであるから、以上合計金二〇一、八〇〇円は、原告の簿外営業経費として当期の利益金額より控除されてしかるべきものである。もっとも前顕甲第一三号証の二および乙第一四号証によると、原告は本件再調査請求に際して、右金額を超える簿外営業経費の支出のあることを主張したようであるが、被告がこれをみとめなかったことは前顕橋本証言に徴して明らかであり、本件訴訟においても右支出の点を認めるに足る資料は存しない。
(ロ)また、前記におけるミナト支店改築費についての当期の減価償却費は、前期と同様、規則第二一条の三第一項第二号により算出すると、本件資産の未償却残額金一一九、八七五円(取得価額より前記の減価償却額を控除した金額)に減価償却率〇・〇八二を乗じて求められる額、すなわち金九、八二八円(右計算関係は被告主張のとおり)である。
(ハ)そうすると、前記売上除外利益金五五六、二三〇円より、原告の営業経費である(イ)の金二〇一、八〇〇円および(ロ)の減価償却費金九、八二八円の合計金二一一、六二八円を控除し、結局、差引金三四四、六〇二円をもって原告の除外利益金と認めるのが相当である。
3 なお被告は、本件更正決定において、原告が原告代表者白井金蔵に対し金員を無償貸付しているものとして、その利息を原告の当期利益金として金四七、七〇一円を加算したが、本件再調査決定においてこれを取消すにいたったことは、当事者間に争いがない。
4 前顕橋本証言および本件弁論の全趣旨によると、原告は当期における収益の分として、売上未収入金九、三五〇円を計上していることが認められるところ、右金額は前期においてすでに所得金額に加算したものであるから(前記(一)の3)、これを当期の所得金額より控除しなければならない。
5 また原告は、本件申告において事業税額の計上をしていない(当事者間に争いがない)けれども、前期における原告の所得金額金三二四、九三九円に対する地方税法所定の事業税率百分の一〇を乗じて求められる金三二、四九〇円は、事業税額として、当期における原告の所得計算上損金に算入できるものであるから、もとよりこれを控除しなければならない。
6 ところで原告は、前期と同様、当期繰越欠損控除額として金四八、七六〇円を計上申告している(当事者間に争いがない)けれども、前期において判断したように(前記(一)の5)、原告は青色申告法人ではなくなっているから、法人税法第九条第五項の適用を受ける余地がない。
7 そうすると、1の当期利益金額、金九一、四三六円に、府県市民税金一三、八八六円、造作費金一九、四二〇円、および2の除外利益金三四四、六〇二円を加え、以上合計金三八五、六六四円より、4の前記計上済の未収入金九、三五〇円および5の未納事業税金三二、四九〇円の合計金四一、八四〇円を控除し、結局、差引金四二七、五〇四円をもって原告の当期における所得金額と認定すべきである。したがって、これと同趣旨の認定に基づいて、さきの更正決定を取消したうえ別表二のうち「再調査決定額」欄記載のとおり為された被告の本件再調査決定は、正当であるといわなければならない。
(三) 自昭和三〇年六月一日至昭和三一年五月三一日事業年度分について
1 原告が、当期利益金額として金一〇三、六六八円の減(マイナス)であること、損金に計算した法人税として金三五、八二〇円のあることを、申告したのに対し、被告は本件更正決定および本件再調査決定を通じて、いずれも異議なく了承したことは、当事者間に争いがない。
2 なお原告は、府県市民税として金一八、〇八八円の支出のあった旨申告している(当事者間に争いがない)けれども、成立に争いのない乙第一九号証の三、四によると、原告が実際に納付した右府県市民税の合計額は金一八、三〇八円であることが認められるから、右金額をもって正当額とすべきであり、法人税法第九条第二項により、これを当期利益金額に加算しなければならない。
3 そこで、前期および前々期と同様にして、当期における原告の除外利益金について検討するに、成立に争いのない甲第一三号証の三、前顕乙第一号証の一ないし三、同第一四号証、前顕橋本証言によると、当期において、すみ子名義の預金に入金された額は金四三三、四六四円、喜代子名義の預金に入金された額は金四九五、三六五円であること、しかし、すみ子名義分の入金中、昭和三〇年一一月一六日付金一、七〇〇円は東京よりの送金であり、また喜代子名義分の入金中、昭和三一年一月一八日付金三〇〇、〇〇〇円は白井金蔵の個人的資金であるとの理由で、被告はこれらを原告の売上利益と関係のない金員として取扱ったこと、そして被告がすみ子名義から喜代子名義の預金へ移動した分としてみとめた金額は、原告の言い分をおおかた容れて、昭和三〇年六月一日付金三四、九三四円、同月三〇日付金二六、三二〇円、同年七月三〇日付金五一、八六〇円(いずれも喜代子名義の預金の入金分)、以上合計金一一三、一一四円であること、をいずれも認めることができ、ほかに前記両名の預金中に原告の売上利益と無関係の入金分のあること、またはすみ子名義から喜代子名義の預金への移動分のあることについては、これを確知できる資料は本件において存しない。してみると、前記両名の預金の入金額合計金九二八、八一一円より、被告が原告の売上利益と無関係であるとした東京よりの送金一、七〇〇円および白井の資金としての金三〇〇、〇〇〇円の合計金三〇一、七〇〇円、さらに前記移動分の金一一三、一一四円を控除し、差引金五一三、九九七円をもって原告の売上除外利益と思料すべきである。
ところで、(イ)前期と同様、原告は当期の会計帳簿に計上していないけれども、成立に争いのない乙第八号証によると、原告は昭和三一年五月従業員の勤続賞費として金三四、〇〇〇円を支出していることが認められ、そして被告が原告の言い分(乙第一四号証記載)を容れて、従業員のレクリエーション(舞子海水浴)費用として金三五、四五〇円及びその他経費として金七七、六六九円の支出のあったこととを了承したことは、被告の自陳するところであるから、以上合計金一四七、一一九円は、原告の簿外営業経費として当期の利益金額より控除されてしかるべきものである。もっとも前顕甲第一三号証の三および乙第一四号証によると、原告は本件再調査請求に際して、右金額を超える簿外営業経費の支出のあることを主張したようであるが、被告がこれをみとめなかったことは前顕橋本証言に徴して明らかであり、本件訴訟においても右支出の点を認めるに足る資料は存しない。
(ロ)また、ミナト支店改築費についての当期の減価償却費は、前期および前々期と同様の根基により算出すると、金九、〇二三円(右計算関係は被告主張のとおり)である。
(ハ)ところで、成立に争いのない乙第一〇ないし第一二号証、前顕乙第一四号証によると、原告は遅くとも昭和三一年一月までには京都支店の洗面所改築のため金一三二、四一〇円を支出したことを認めることができるところ、右改築費用はミナト支店改築費の場合(前記(一)の4の(ロ))と同様にいわゆる資本的支出であるから、所定の根基により減価償却相当額をもって当期における所得計算上損金として取扱われるべきものである。しかして、右資産は建物附属設備のうちの給排水設備に該るから、減価償却計算の基礎として当該資産に適用されるべき耐用年数は、省令別表一により二〇年であり、右年数に対する定率法(原告がこれを選択していることはすでに述べたとおりである)による減価償却率は省令別表七により〇・一〇九であり、そこで規則第二一条の三第一項第二号に規定する方法により、右設備の取得価額金一三二、四一〇円に右減価償却率〇・一〇九を乗じて計算すると、減価償却範囲額は金一四、四三二円となる。しかし原告は右設備を事業年度の中途において取得しているから、細則第三条の三により、当期において損金に算入される減価償却額は、右減価償却範囲額金一四、四三二円にその取得の日から当期の終了の日までの期間の月数五(すなわち昭和三一年一月から同年五月三一日までの期間の月数)を乗じ、これを当期の月数一二で除して計算した金六、〇一三円(以上の計算関係は被告主張のとおり)である。
(ニ)さらにまた、成立に争いのない乙第九号証、前顕甲第一三号証の三および乙第一四号証によると、原告は昭和三一年一月本店の移築のため金一七〇、〇〇〇円を支出したことを認めることができるが、右移築費用も前記(ハ)の場合と同様に資本的支出であるから、前同様の根基による計算をすると(省令による耐用年数は二七年、右年数に対する定率法による償却率は〇・〇八二、規則による減価償却範囲額は金一三、九四〇円である)、右資産に対する当期の減価償却額は金五、八〇八円(右計算関係は被告主張のとおり)である。
(ホ)そうすると、前記売上除外利益金五一三、九九七円より、(イ)の簿外営業経費金一四七、一一九円、および(ロ)、(ハ)、(ニ)の各減価償却費合計金二〇、八四四円を控除し、結局、差引金三四六、〇三四円をもって原告の除外利益金と認めるのが相当である。
4 なお被告は、本件更正決定において、原告が原告代表者白井金蔵に対し金員を無償貸付しているものとして、その利息を原告の当期利益金として金一二七、二三五円を加算したが、本件再調査決定においてこれを取消すにいたったことは、当事者間に争いがない。
5 ところで原告は、前期と同様、本件申告において事業税額の計上をしていない(当事者間に争いがない)けれども、前期における原告の所得金額金四二七、五〇四円に対する地方税法所定の税率百分の一〇を乗じて求められる金四二、七五〇円は、事業税額として、当期における原告の所得計算上損金に算入できるものである。しかしながら、成立に争いのない乙第一九号証の一ないし四によると、原告は当期の損金として事業税金八、二二〇円を計上していることが認められ、右金額は被告が前期においてすすんで損金として取扱った事業税額の一部であり、再び損金として計上できないものであるから、被告は便宜として右金額を前記事業税額金四二、七五〇円より控除し、差引金三四、五三〇円をもって当期における事業税額としたことは、本件弁論の全趣旨に徴して明らかである。
6 そうすると、1の当期利益金額、金一〇三、六六八円の減(マイナス)に、法人税金三五、八二〇円、2の府県市民税金一八、三〇八円および3の除外利益金三四六、〇三四円を加え、以上合計金二九六、四九四円より、5の未納事業税金三四、五三〇円を控除し、結局、差引金二六一、九六四円をもって原告の当期における所得金額と認定すべきである。したがって、これと同趣旨の認定に基づいて、さきの更正決定を取消したうえ、別表三のうち「再調査決定額」欄記載のとおり為された被告の本件再調査決定は、正当であるといわなければならない。
四、叙上の次第であって、本件各事業年度における原告の所得金額について、被告が本件各再調査決定において為した認定は、正当であり、本件各再調査決定にはなんらの違法の点も存しないものというべきである。
よって、原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山田常雄 裁判官 仲西二郎 裁判官 中山善房)
別表一
自昭和二八年六月一日 至昭和二九年五月三一日 事業年度分(単位 円)
<省略>
別表二
自 昭和二九年六月一日 至 昭和三〇年五月三一日 事業年度分(単位 円)
<省略>
別表三
自 昭和三〇年六月一日 処 昭和三一年五月三一日 事業年度分(単位 円)△はマイナス
<省略>
「法人税法第三一条の四第二項に基づく推計」
一、自昭和二八年六月一日至昭和二九年五月三一日事業年度分について、
(1) 売上金額四、四二〇、〇〇〇円
大阪国税局において作成している「法人の効率表」(昭和二九年調査分)によれば、原告会社の業種に適用さるべき右事業年度の売上金額の割合は従業員一人当り二六〇、〇〇〇円である。而して原告会社の規模は本店の外にミナト支店および京都支店を有し、各店の従業員数は別表(一)のとおりである。右事業年度における年間平均従業員は一七、七人であるが端数人員を切り捨て、一七人として計算すると年間売上金額は四、四二〇、〇〇〇円となる。
(2) 営業利益金額七二九、三〇〇円
前期効率表によれば、原告会社の業種に適用さるべき右事業年度の営業利益率一六、五%である。これにしたがって(1)の売上金額より営業利益金額を算定すれば七二九、三〇〇円となる。
(3) 所得金額六七六、一八一円
右営業利益金額について左記金額の加減をすれば、原告の所得金額は被告の再調査処分額と比較して三五一、二四二円上廻ることになる(別表(二)参照)。
営業利益金額 七二九、三〇〇円
雑収入金額 五、三四〇円
計(A) 七三四、六四〇円
減価償却費 五七、二五九円
創業費償却 一、二〇〇円
計(B) 五八、四五九円
所得金額(A)、(B)六七六、一八一円
二、自昭和二九年六月一日至昭和三〇年五月三一日事業年度分について
(1) 売上金額四、九四〇、〇〇〇円
法人の効率手引(昭和三一年三月)によれば、原告会社の業種に適用さるべき右事業年度の売上金額の割合は従業員一人当り二七〇、〇〇〇円であるが、前事業年度の割合二六〇、〇〇〇円を適用した。而して右事業年度における原告会社の従業員数は別表(一)の一九人となる。したがって原告会社の右事業年度の売上金額を推計すると四、九四〇、〇〇〇円となる。
(2) 営業利益金額八一五、一〇〇円
前記法人の効率手引(昭和三一年三月)によれば、原告会社の業種に適用さるべき右事業年度の営業利益率は三四、〇%であるが、右効率手引をそのまま原告会社に適用することは原告会社の営業規模等より考えて妥当でないと思われたので、前事業年度において原告会社に適用した一六、五をもって営業利益金額を八一五、一〇〇円と算定した。
(3) 所得金額七四四、一六三円
右営業利益金額について左記金額の加減をすれば、原告会社の所得金額は被告の再調査処分と比較して三一六、六五九円上廻ることとなる。
営業利益金額 八一五、一〇〇円
雑収入金額 六二四円
受入利息額 二、二八〇円
計(A) 八一八、〇〇四円
減価償却費 四〇、一五一円
創業費償却 一、二〇〇円
事業税 三二、四九〇円(前事業年度の再調査処分により納付の確定した前事業年度分の事業税)
計(B) 七三、八四一円
所得金額(A)、(B) 七四四、一六三円
三、自昭和三〇年六月一日至昭和三一年五月三一日事業年度分について
(1) 売上金額六、五〇〇、〇〇〇円
法人の効率手引(昭和三二年一〇月)によれば、原告会社の業種に適用さるべき右事業年度の売上金額の割合は従業員一人当り三二七、〇〇〇円であるが、原告会社の営業規模より考えて前事業年度および前々事業年度において適用した二六〇、〇〇〇円を採用した。原告会社の従業員数は別表(一)の二五、四人であるが、端数を切り捨て、二五人として右事業年度の原告会社の売上金額を計算すると六、五〇〇、〇〇〇円となる。
(2) 営業利益金額一、〇七二、五〇〇円
前記法人の効率手引によれば、原告会社の業種に適用さるべき右事業年度の営業利益率は三〇、七%であるが、前事業年度において述べたとおり、前事業年度および前々事業年度において適用した一六、五%の営業利益率をもって計算すると原告会社の右事業年度の営業利益金額は一、〇七二、五〇〇円となる。
(3) 所得金額一、一〇一七、〇三四円
右営業利益金額について左記金額の加減をすれば、原告会社の所得金額は被告の再調査処分額と比較して七五五、七三〇円上廻ることとなる。
営業利益金額 一、〇七二、五〇〇円
雑収入金額 二、一〇八円
計(A) 一、〇七四、六〇八円
貸倒損失 一、五四〇円
減価償却費 二一、五〇四円
事業税 三四、五三〇円(前事業年度分の再調査処分により、納付の確定した前事業年度分の事業税)
計(B) 五七、五七四円
所得金額(A)―(B) 一、〇一七、〇三四円
以上のとおり、原告会社の右事業年度分の所得金額について法人税法第三一条の四第二項の規定に従って推計したものであるが、推計計算に当って、原告会社の営業規模等を考慮し、推計計算の基礎とした別表(一)の従業員数につき原告準備書面による人数と原告会社の申告等による人数とを比較して少ない方を適用し、従事員一人当りの収入金額、営業利益率についても最初の事業年度分をそのまま次の二事業年度分に適用した。
このように原告会社の実態に即すようにその所得金額を計算したところ、その金額は被告の再調査処分額(別表(二)参照)を上廻っているから、被告の再調査処分は正当なものであるということができる。
別表一 各事業年度の従事員すう勢表
<省略>
別表二 法第31条の4の推計計算と再調査額との比較表
<省略>